Ⅵ.コンピュータ業界における知的財産の創造

1.発明の名称

 「京」(スーパーコンピュータ)


2.特許番号

 数多くの特許から成り立っている。
 京を支える技術の例として、CPUの微細加工用レジスト材料(特許第4,012,600号、第3,819,531号、第3,752,065号、第3,380,128号)や低誘電率層間絶縁膜材料(特許第3604007号)がある。


3.発明を選定した理由(どのように世界一か)

 世界一速いスーパーコンピュータであるから。2011年6月と11月のTOP500リスト (*1) において第一位を獲得した。
 LINPACK (*2) テストでは10ペタフロップス(毎秒約1京回の浮動小数演算数)、実行効率は93.2%という高水準の記録を達成している。


4.発明の説明

(1)発明が生まれた時代背景

 2004年11月にNECの「地球シミュレータ」がIBMにTOP500一位の座を奪われてしまい、日本はスーパーコンピュータで2番手に転落してしまう。
 そして2005年に、文科省のWGに「政府の国家戦略として最先端の性能を持つスーパーコンピュータの研究開発を持続的に推進していくべき」との提言が提出され、理化学研究所を中心とした国家プロジェクトが始動した。
 2009年、富士通が当時世界最速128ギガフロップスのプロセッサ(SPARC64 VIIIfx)を開発したと発表する一方、NECと日立が、開発費負担の増大によりプロジェクトから撤退したり、民主党政権のもと、「2位じゃダメなんでしょうか?」の事業仕分けの対象になったり、紆余曲折の波乱を経る。
 そして、2010年に「京」の名称が決まり、2011年に世界一となる。


(2)発明の技術的特徴及び従来発明

 従来発明としては、2010年11月のTOP500リスト1位であった中国の「天河一号A」を挙げる。LINPACKテストで2.566ペタフロップス(理論値4.701ペタフロップス、実行効率55%)の性能であった。
 以下が、京の技術的特徴である。京は、LINPACKテストで10.51ペタフロップス(理論値11.28ペタフロップス、実行効率93.2%)の性能であり、従来技術である「天河一号A」より約4倍処理性能が向上している。

① プロセッサ(SPARC64 VIIIfx)
1プロセッサ(8コア)あたり128ギガフロップスの計算能力を持ち、1ワットあたり2.2ギガフロップスという世界最高クラスの低消費電力である。

② インターコネクト技術
88,128個ものCPU数を相互に接続するネットワーク技術として、Tofuと呼ばれるインターコネクトを開発した (*3) 。複数処理の割当て、一部の故障の際にも故障箇所を回避してシステム処理を継続できることが可能になった。

③ 水冷技術
発熱源となるプロセッサなどの冷却技術として水冷方式を採用し、高密度実装を実現するとともに部品寿命を向上した。


(3)発明者の心情(発明者が属する企業の歴史)

 富士通川崎工場にあるテクノロジーホールでは、「富士通が世界NO.1を目指す理由」として以下の三点が挙げられている。

① 世界一早いことではなく、世界一役に立つこと

② 科学技術のブレークスルーを実現し、競争力を強化すること

③ 科学技術を推し進める人材を育成すること
 理化学研究所の野依良治理事長は、京の事業仕分けに対し、「先進各国が国の威信をかけてスパコンの開発にしのぎを削っている。いったん凍結すれば他国に追い抜かれる」とし、仕分けの流れを批判した。


(4)他の世界一発明と共通していると予想される事項

① 必要性からなる技術進歩の要請
 発明者ではないがテクノロジーホール館長の原宣彦さんによると、非常に複雑な動きをする心臓の動きを細胞レベルでシミュレーションする場合、京ですら一拍に18時間かかるそうである。1位を目指すスパコンの開発は技術ありきでなく、医療等の発展という観点から必要とされており、それに技術者たちが応えようとしているのである。

② 企業、家庭用製品への応用
 京の技術を応用した「SPARC M10」というUNIXサーバがある。これは京のもつCPU技術により、従来よりも性能を8倍にした世界一の計算処理能力等をもつCPUをもち、インターコネクト技術や水冷技術もビジネス向けに応用したサーバである。このように、「京」開発の技術開発により、そこから企業向けのサーバの性能が上がった。以前SPARC M10を話して下さった富士通営業の方は、「いつかそこらの企業のサーバが全部『京』と同じ性能になるだろうし、そう遠くはないかもしれない」と話していた。事実、現在の富士通の次世代スーパーコンピュータ「PRIMEHPC FX10」は既に最大で23.2ペタフロップスという、「京」の約2倍の計算性能をもつに至るほど、日々技術は進歩している。
 以上、2点あると考えます。

以上

  • 最終更新:2019-03-30 21:59:45

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