水冷立型ディーゼルエンジン(D1105シリーズ)

Ⅴ.機械における知的財産の創造

1.発明の名称

 「水冷立型ディーゼルエンジン(D1105シリーズ)」


2.特許番号

 数多くの特許から成り立っている。
 独自開発されたE-TVCS(渦室流式)燃焼方式が採用されており、これに関連する特許として、平成9年に全国発明表彰を受賞した特許1918927号などがある。


3.発明を選定した理由(どのように世界一か)

・特許権者である株式会社クボタは自動車向けを除いた100馬力以下の産業用エンジン生産台数で世界一を誇るから。

・D1105シリーズは平成5年に、汎用エンジンとして世界で初めてCARB(米国カルフォルニア州大気資源局、California Air Resources Board)排ガス規制の認証を獲得したから。CARBは、1967年に米国50州でも特に大気汚染が深刻であったカルフォルニア州に、効果的な大気汚染問題の解決を通じて、人々の健康・福祉・経済的資源の増進・保護を目的として設立された 組織である。世界的にも先進的な規制政策が実施されてきており、日本に匹敵するような厳しい値が設定されることもある。


4.発明の説明

(1)発明が生まれた時代背景

 経済発展とともに、深刻な大気汚染が世界的な社会問題となった。大気汚染は、汚染物質が排出されることが原因である。汚染物質の中でも特にディーゼルエンジンから排出される粒子状物質(PM)、硫黄酸化物、窒素酸化物(NOx)の規制が厳しくなされている。そのような状況の中で、いろいろな用途に使われるエンジンについても地域により異なる排ガス基準が設定されるようになった。各地域で事業展開する際にもそれぞれの排ガス基準をクリアできる製品を製造することが求められる中、上記発明が生まれた。
E-TVCS燃焼方式を採用した同社のディーゼルエンジンは、ディーゼルエンジンに求められる低燃費・高トルクを実現しながらも、排ガス規制をクリアした。


(2)発明の技術的特徴及び従来発明

 ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンに比べ熱効率が高く(燃焼温度が高い)、CO2やCOの発生を抑えることができる。また、エンジン全開で稼働させる必要がある機械が必要とする高トルクを低回転で取り出すことができる。従来は、コンパクト・多気筒・低振動・低騒音のディーゼルエンジンが指向されていた。
 しかし一方では、ディーゼルエンジンはPMやサーマルNOxを発生させてしまう。サーマルNOXはNOxの中でも燃焼温度が原因となって発生し、燃焼温度が高くなると発生割合が一気に高くなる。このPMやサーマルNOxが大気汚染の問題とされてきたことで、ディーゼルエンジンについて上記4要素に加えて、新たに排ガス規制をクリアできる環境性能が求められるようなった。
 エンジン開発は、1年で2〜4%の燃費向上を目標とする地道な作業であると言われている。ピストンとシリンダーの摩擦低減や、エンジンオイルの最適化、燃焼室の改善、最適な着火時期の模索等、とてつもなく数が多い部品のそれぞれを少しずつ改善していくことで、燃費向上が達成されている。
 本製品においても、数多くある部品のそれぞれの改良・連携の見直しが繰り返されることで、求められる性能を備えるに至っている。
 

(3)発明者の心情(発明者が属する企業の歴史)

 1890年の創業当時、大阪では衛生的な飲み水の不足、全国的には伝染病の蔓延が問題となり、水道の整備が急務であった。水道管の国産化は無理だと考えられている中で、創業者である久保田権四郎は「外国人に出来ることが日本人に出来ぬはずがない」という信念を持って、研究試作に励んだ。結果、国内初の鋳鉄管の量産化に成功し、日本中の多くの人がきれいな水を飲めるようになった(注2)。
 世のため人のためを思って、食料・水・環境に関する数々の事業の礎を築いた創業者・久保田権四郎から受け継がれている信念に以下のようなもの(注3)がある。
・「やればできる」
・「失敗を恐れるな」
・「国の発展に役立つ商品は、全身全霊を込めて作り出さねば生まれない」
・「技術的に優れているだけでなく、社会の皆様に役立つものでなければならない」
 これらの信念は、今も同社の企業理念・精神として行動の指針となっており、発明者の心情にも影響があったと考えられる。


(4)他の世界一発明と共通していると予想される事項

 ①世界的な規制へのいち早い対応
 規制にいち早く対応することで、他に先立って事業展開をすることが可能になり、そのことは市場形成力に大きく寄与すると考える。また、規制をクリアできる技術について特許を取得しておくことで、参入障壁が形成でき、事業展開の上でも有利に進めることができる。
 ②研究への設備投資
 変わりゆく世界事情に対応するため、新しく設定される規制を予測し、それに対応できる技術を継続的に生み出す土壌形成が世界一の発明を生み出す上でも重要になると考える。
 ③発明者の「あきらめない精神」
 地道な研究・改良を繰り返すことも、新しい発明を生み出す上で必要となる作業であると考える。目標達成のためにあきらめない精神もまた、世界一の発明の誕生に寄与していると考える。


(5)注釈・参考文献

 (注1)California Air Resources Board 「History of Air Resources Board」
http://www.arb.ca.gov/knowzone/history.htm(2014年6月11日アクセス)
 (注2)株式会社クボタ『クボタ100年(1890-1990)』(株式会社クボタ、1990年)
株式会社クボタ ホームページ「Kubota’s History」http://www.kubota.co.jp/recruit/graduate/history.html(2014年6月11日アクセス)
 (注3)前掲注2)「Kubota’s History」、
株式会社クボタ ホームページ「企業理念」http://www.kubota.co.jp/siryou/identity.html
(2014年6月11日アクセス)

以上

  • 最終更新:2019-03-30 22:06:00

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